Facebook今昔物語 ~あのころ僕らはリア充だった 2005夏~」に続き、今回は2006年当時のFacebookの話です。当時のユーザ目線でのエントリを書くのが目的ではありますが、APIが公開された年だということ、私自身が休学していてFacebookへのログイン頻度が落ちていたことから、ユーザ目線から逸れたところが出てきます。前エントリで紹介した通り、クラスやカフェテリアで日常的に関わる友達との伝言板としてウォールを利用するのが中心だったため、休学や長期休暇で大学を離れるとログイン率が下がるというのが、当時の特徴だったようです。Facebookの機能追加や大学追加でさえ、新学期が始まる9月を目安にしていたというところからも、当時のFacebook利用が大学生活の延長上にあったことが分かります。

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開発者プラットフォーム公開

開発者プラットフォームがβリリースされたのが8月15日でした。この当時サポートされていたメソッド一覧は以下の通りで、今のドキュメントの膨大さを考えると、とてもシンプルです。
  • auth.createToken
  • auth.getSession
  • events.getInWindow
  • friends.get
  • friends.getAppUsers
  • friends.getTyped
  • friends.areFriends
  • messages.getCount
  • photos.getAlbums
  • photos.getCommentCount
  • photos.getFromAlbum
  • photos.getOfUser
  • pokes.getCount
  • session.ping
  • users.getInfo
friends.getTyped は social link タイプと呼ばれるものを指定することで特定の繋がりを持つ友人を取得することができたらしいのですが、COURSE を指定すると同じコースを履修した友達を取得できるなど、ここにもコースマッチの名残が見えます。
また、見ると分かる通り、ウォールへの投稿やアプリリクエスト送信などのニュースフィード配信に関する機能が提供されていません。アプリ上での行動をニュースフィードで拡散するのがアプリを広める上で効果的ですが、ニュースフィードが公開されるのはこの1ヶ月後です。当然のことながら、この段階ではAPI公開はそこまで注目されず、サードパーティのアプリを利用するユーザも限られていました。Facebook自身もAPIを利用したMoochSpot(旧FaceBank)というアプリを公開しましたが、覚えている限り、私の友達て使っているユーザはいませんでした。もしかしたら一部に使っている人もいたかもしれませんが、ニュースフィードでの配信が無かったので知る由もありません。。。
Facebookが自身の写真アプリを参考にして、ソーシャルグラフの活用やニュースフィード配信を外部アプリに対して適用するようになるのは2007年5月のf8以降です。

ニュースフィード / ミニフィード

9/5、ニュースフィードとミニフィードが同時に公開されました。ニュースフィードの役割は今私たちが見ているものと変わらず、友達の更新情報が流れるものです。それに対し、ミニフィードは1人1人のプロフィールページに表示されるもので、そのユーザの更新のみが流れるものでした。以下のキャプチャは公式ブログから持ってきたもので、右下にMini-Feedの領域が見えます。
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当初、ニュースフィードは全く受け入れられませんでした。当時のFacebookの使い方は、前回のエントリで紹介した通り、相手のプロフィールページへ行くのが基本です。寮の友達の部屋を通りかかったとき、ドアのホワイトボードに「12:00にカフェテリアでね!」と書き込むのと同じ感覚で、友達のウォールに書き込んでいました。当然、何が書かれているかを見るには友達の部屋まで行ってホワイトボードを見なくてはならないのと同様、友達のウォールに書かれたことを見るには、友達のプロフィールページへ行く必要がありました。それがいきなり、友達の行動が全部自分のホームに流れてくるようになったわけで、プライバシーが奪われたように感じたのです。
翌日にザッカーバーグが投稿した「Calm down. Breathe. We hear you.(落ち着いて。深呼吸して。ちゃんと聞いてるから。)」という、ユーザを小馬鹿にしたようなタイトルのブログエントリも火に油を注ぐ結果となり、フェイスブック 若き天才の野望によれば、ユーザの10%がニュースフィード反対グループに参加するなどの抗議行動をとったそうです。
実際、この変化は気持ち悪いと言えば悪いものでした。これまでは意識的に相手のプロフィールページに行かない限りは見えなかったものが、Facebookにログインすると一覧になって並んでいたわけです。自分自身も人の行動を追っているように思えてくるし、自分の行動も同じように追われているというのは気味が悪いものです。パーティ翌日のタグ付き写真投稿ほど怖いものはありません。

政治への関わり

Facebookのプロフィールには、ローンチ当初から政治観を入力する項目がありました。今では自由入力になっていますが、当時はラジオボタンになっていて、「リベラル派」などと選択するようになっていたと思います。日本の大学生からすると妙かもしれませんが、けっこう入力している人は居たように思います。また、前エントリの通り、「グループ参加=実名での署名」という意味合いが強かったため、グループは諸々の政策について自分のポジションを明確にする目的でも活用されました。Facebookも学生が政治に参加することを奨励していて、「Facebook the Vote」というエントリでは、選挙を前にして立候補者のプロフィール1600人分が追加されたことが公開されています。
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この当時のグループで一般公開されているものだと、イラク派兵に反対する「Bring the Troops Home Now(今すぐ兵士を我が家へ)」や、賛成する「Stay in Iraq Until the Job is Done(任務を全うするまではイラクに残す)」などがあります。大学にROTC(予備役将校訓練課程)が用意されていたり、コンビニで乳がん撲滅ステッカーと同じ列に「Support our troops(我々の兵を支持する)」ステッカーが売られているなど、学生には身近な話題でした。また、もっと学生らしいグループとしては、「Reduce the Drinking Age to 18!(飲酒を18歳から可能に!)」などもあります。

一般人もユーザ登録可能に

アメリカの大学生 / 高校生、それから一部の企業のみがこれまでFacebookを利用できていましたが、一般ユーザにも公開されたのが9/26でした。この後の1週間のうちにはユーザ数は1000万人を越え、一般ユーザにも浸透していきました。一般ユーザの間でも招待機能は頻繁に使われたらしく、もともと2万人だった1日あたりの登録数は5万人を越えるようになり、12月には累計1200万ユーザに達します。

シェア

今ではLike(いいね!)と並んでFacebookを象徴するシェア機能ですが、これが公開されたのは10/27でした。10/31には外部サイトに設置するシェアボタンも公開され、シェアしたものがニュースフィードによって拡散していくという流れが確立されました。この前後の流れについては、「シェア / いいね! / 送信ボタンの歴史」を参照してください。

まとめ

友達の行動や、シェアされた世の中の出来事がニュースフィードで流れてくるようになるなど、今のFacebookの形へと近づいたのが2006年でした。この改修の背景にあるのは「ユーザの友達の行動や興味の対象には、ユーザ自身も関心を持つ」という発想だと思います。
この考えは後も変わらず、外部サイトでの行動履歴が不本意に流れるBeacon(大反発で撤廃)や、そのほとぼりが冷めてライフログ系のサービスが一般的化した2011年の、新Open Graphでのアクティビティ共有に繋がっているはずです。
現状としては、新Open Graph公開時に出たAdd To Timelineプラグインが消えてしまったり、Recommendations Barからソーシャルリーダー機能が消されたり、Open Graphアプリからのアクティビティ共有が規制強化されるなど、相変わらずアクティビティの共有とプライバシーの保護はとても繊細な問題です。そういった面でも、2006年のニュースフィード公開と一連の騒動は象徴的だと思います。